歯磨きが日本で広まったのは江戸時代!当時使われていた道具を解説

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歯磨きは私たちにとって当たり前にやっていることですが、日本の庶民に広まったのは江戸時代のこととされています。本記事では、江戸時代に使われていた

・歯ブラシ
・歯磨き粉

について解説していきます。あわせて、当時の虫歯・歯痛の治療法も紹介するので、現代との違いを感じてみましょう!

歯磨きが庶民に広まったのは江戸時代のこと

浮世絵に描かれた江戸の町並み
出典:『東都名所 駿河町之図』(国立国会図書館デジタルコレクション)の一部

まず、歯磨きの起源は、古代インドにあるとされています。古代インドでは、細い木の枝の先端を噛んで線維状にしたもので歯と舌を掃除していました。この道具は「歯木(しぼく)」と呼ばれ、現代の歯ブラシの原形とされています。

歯木を使った歯磨きはインドから中国、朝鮮半島を経て、6世紀ごろ仏教とともに日本へ伝わったと考えられています。ただ、当初の歯磨きはあくまで身を清める仏教の儀式という扱いであり、公家・僧侶など、上流階級の人々のものでした。

江戸時代になると、歯木の進化形ともいえる房楊枝(ふさようじ)、そして歯磨き粉が商品化され、歯磨きが庶民にも広まります。江戸っ子の間では真っ白な歯こそが粋だとされ、若者たちはガシガシと歯を磨きました。

当時の川柳にも、

「喰潰す 奴に限って 歯を磨き」
「親の脛(すね) かじる息子の 歯の白さ」


と身だしなみばかり気にする道楽息子を皮肉ったものがあるほどでした。

江戸時代に普及した歯磨き用品

歯磨きに使うものといえば、歯ブラシと歯磨き粉ですよね。前述の通り、江戸時代には歯ブラシにあたる房楊枝(ふさようじ)と歯磨き粉が普及しました。ここでは、房楊枝と歯磨き粉について詳しく解説します。

江戸時代の歯ブラシ・房楊枝(ふさようじ)

房楊枝を使う女性
出典:『風俗三十二相 めがさめさう 弘化年間むすめの風俗』(国立国会図書館デジタルコレクション)の一部

上の画像のように、江戸時代では歯を磨く女性がしばしば浮世絵の題材になっています。画中の女性が歯磨きに使っているのが、当時の歯ブラシ・房楊枝(ふさようじ)です。房楊枝の部分を拡大した以下の画像で、細かな作りを見てみましょう。

房楊枝は柳、カンボク、クロモジといった木の枝の両端、あるいは一端を木槌でたたき、すいて房状にして作られました。この房の部分がブラシの役割をしています。この絵のように両端が房状の場合、一端を化粧筆がわりにすることもあったようです。また、一端のみ房状の場合、もう一端は鋭く尖った形状にして歯間の掃除に使われました。

さらに柄の表面はナイフ状、あるいは真四角に削られており、この部分は舌の汚れを落とす「舌こき」に使われました。

江戸時代の歯磨き粉

歯磨き粉については、寛永20年(1643)、丁字屋喜左衛門という商人が朝鮮の人から教わったことがはじまりとされています。それまで人々は、塩やみがき砂、米ぬかを焼いたもので歯を磨いていました。特に赤穂藩の焼き塩は、5代将軍・徳川綱吉に献上されたこともあり、江戸で人気がありました。

歯磨き粉が庶民に広まったのは、元禄期(1688~1704)のことです。当時の歯磨き粉のベースとなったのは、「房州砂」です。房州砂とは、房総半島(千葉県)で取れた陶土から微細な粒を取り出し乾燥させたもの。成分は炭酸カルシウムだと考えられています。この房州砂に龍脳(りゅうのう)、丁字(ちょうじ)、桂心(けいしん)といった薬効成分を加えることで歯磨き粉が作られていました。

江戸時代後期の書物『嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)』では、「白砂や米ぬかを使うところもあるが房州砂には及ばない、歯磨き粉は江戸に優るものはない」と絶賛しており、当時の歯磨き粉が高く評価されていたことがうかがえます。

江戸時代の歯磨き用品の売り方

私たちが使う歯ブラシや歯磨き粉を売っている場所としては、ドラッグストアやコンビニエンスストアが挙げられます。しかし、江戸時代には少々違った売られ方をしていました。

房楊枝の売り方

軒を連ねる楊枝店
出典:『江戸名所図会 6巻』「楊枝店」(東京都立図書館)の一部

浅草にある浅草寺の境内には、画像のように楊枝を売る「楊枝店(ようじみせ)」が数多くありました。楊枝のほかに、お歯黒の材料である五倍子(ごばいし・ふし)や酒の席に使う酒中花なども販売していたようです。浅草寺の楊枝店は、3代将軍・徳川家光が立ち寄ったことで広く知られるようになりました。

また、楊枝店は美人の看板娘を置いていたことでも知られています。上の画像でも、店番をしているのはいずれも女性です。なかでも、柳屋のお藤という女性は絶世の美女として有名で、浮世絵師・鈴木春信も作品の題材にするほどでした。そんな美しい看板娘を一目見ようと、江戸の男性たちは浅草寺に足しげく通ったようです。

歯磨き粉の売り方

居合抜きを披露する香具師
出典:『養生一言草 初編』(京都大学附属図書館)の一部

歯磨き粉についても、いまとは異なる方法で売られていました。その一例が、「おはようの歯磨うり」です。毎朝、引き出し付きの箱を肩にかけて「おはよう、おはよう」と声を上げながら歯磨き粉を売り歩きました。

さらに、眼かつら(目が描かれたアイマスクのようなもの)をつけ、声色・身ぶりも交えて泣き顔や笑い顔を演じる「百眼米吉(ひゃくまなこよねきち)」という歯磨き粉売りも記録されています。

また、神社の境内や広小路で見世物をする香具師(やし)もいました。天保2年(1831)に書かれた養生一言草(画像)では、高下駄を履いて三方を重ねた台の上に乗り、居合抜きをする香具師が描かれています。背後には「口中はみがき 御歯く(すり?」)」と書かれたのぼりも見えます。

居合抜きのほか、まりを使った曲芸・曲鞠(きょくまり)や独楽回しを披露して客を集める香具師もいました。

いまとは異なる歯痛・虫歯の治療法

現代でも同じですが、歯磨きが庶民に広まったとはいっても、江戸時代の人々はたびたび歯痛や虫歯に悩まされていました。以下では、当時の歯痛や虫歯の治療法を紹介していきます。

抜歯

江戸時代の抜歯の様子
出典:『きたいなめい医 難病治療』(東京都立図書館)の一部

歯の治療については、江戸時代以前から「口中医」という歯医者さんのような人がいました。ただ、口中医が治療対象としていたのは公家や武家など、上流階級の人々です。江戸時代になってもこの状況は変わらず、庶民の治療は「歯抜師」「入歯師」と呼ばれる人が担いました。主な治療法は抜歯です。

そのやり方としては、

  • 鉗子(かんし:刃のないハサミのような器具)で歯を掴んで引っこ抜く
  • 木の棒を歯に当てて木槌でたたいて抜く
  • 弓と矢で抜く

といった手法がとられました。抜歯は麻酔なしでおこなわれることが多かったようで、想像しただけでも恐ろしいものです。また、入れ歯師が歯痛止めの薬を作ることもあり、その薬を使うケースもありました。

民間療法

出典:写真AC

歯を抜いてもらう以外にも、人々はあの手この手で治療・症状の緩和に努めました。以下はその一例です。

  • 焼酎で口をすすぐ
  • 杉・ヒノキの脂を丸めて歯の穴に入れる
  • もぐさを火で焼き、その煙を鼻から吸って口から吐く
  • 大根のしぼり汁を痛くないほうの耳に注ぐ
  • 茄子を黒焼きにしたものをつける

現代人からすると、はたして効果はあるのかと言いたくなる方法が多いです。しかし茄子の黒焼きに関しては、現代でも歯磨き粉として販売されており、お口のケアに効果があるとされています。

神頼み

日比谷神社
出典:写真AC

歯の悩みを抱えているとき、神仏への祈願も盛んにおこなわれました。歯痛・虫歯にご利益があるとされる神社・お寺は全国に300以上あるとされ、江戸にも多くの寺社がありました。以下はその一例です。

  • 白山神社(東京都文京区)
  • 日比谷神社(東京都港区)
  • 長仙寺(東京都杉並区)

全国各地にある白山神社は、歯にご利益があるそうです。一説によると、歯周病を意味する「はくさ」から歯に関する信仰の対象になったとのこと。

日比谷神社では、サバを食べないようにして祈願すると虫歯が治ったという話が伝わっています。

長仙寺は、享保9年(1724)に造立された如意輪観音の石仏が頬をおさえるような体勢であることから、「歯痛を肩代わりしてくださる」と信仰を集めました。

房楊枝と歯磨き粉が江戸時代の歯磨きを支えていた

ここまで、江戸時代の歯磨き事情について解説してきました。それまで上流階級のものだった歯磨きが庶民にも広まった背景には、

  • 房楊枝
  • 歯磨き粉

の普及がありました。それぞれの販売において、房楊枝では楊枝店、歯磨き粉では香具師をはじめとする歯磨き粉売りが大きな役割を果たしていたというのが特徴的です。また、歯が痛くなった際は民間療法や麻酔なしの抜歯に頼らざるを得なかったのも、現代との違いといえるでしょう。

【参考書籍】
・大野 粛英『歯』(ものと人間の文化史177) 法政大学出版局、2016年
・長谷川 正康『歯科の歴史おもしろ読本』 クインテッセンス出版、1993年
・佐藤恭道、戸出一郎、雨宮義弘「「耳嚢」にみられる歯痛の治療法について」(『日本歯科医史学会々誌』第27巻、第3号通巻104号、2008年)
【参考サイト】
つい誰かに話したくなる!歯の歴史が楽しく学べる「歯の博物館」に潜入 : 暮らしのマイスターが行く | Lidea(リディア) by LION
弟子の口臭にたじろいだ釈迦の「歯木のすすめ」|人はいつから歯みがきを始めたのか
ドラマ『JIN-仁-』に出てきた江戸時代の歯ブラシ ”房楊枝” | にしなか歯科クリニック
歯の神様 – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020

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早瀬川 シュウ

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